みらい言語技術研究所

昔話のすべての文章で,主語などを省略せずにSVOCを整えたら…

子ども向けの一般的な昔話を読んでいて,主語の省略が多すぎることが気になり,リライトしてみました.

基本的にすべてのセンテンスで,主語は必ず入れてあります.指示語や目的語も同様に省略しませんでした.実験的にオノマトペの使用も避けています.

また話の細部は,気の向くままに変えています.使用する語彙については,基本的に幼稚園の年長から小学校低学年に合わせています.

幼稚園年中・年長向け

 キツネが道を歩いていました.キツネはお腹がほんとうにぺこぺこで,いっしょうけんめい食べ物をさがしていました.すると,たくさんのブドウの実がなっている木を見つけました.ブドウはきれいな紫色で,とてもおいしそうです.

「これはうまそうなブドウだ.しかもあんなにいっぱいなっている.あれだけのブドウを食べればおなかもいっぱいになるだろう.しかも,あんなにいい色をいているのだからさぞ甘いだろう.ああ,考えただけでもよだれがとまらない」

 キツネは大喜びしてブドウの木の下まで行ってみました.でもブドウの実は高いところにあったので,手が届きません.キツネは飛び上がって取ろうとしましたが,キツネの手はブドウの実には届きませんでした.

 キツネは,もっと高く飛べば届くだろうと思って,しゃがんでからおもいっきり飛び上がりました.でもキツネの手はブドウの実には届きませんでした.

 キツネはしばらく考えると,まわりを見渡しました.そして大きな石を見つけると,ブドウの実の下まで,何とか石を運んできました.キツネはその石の上に乗ってとびあがりましたが,やっぱりブドウの実には届きませんでした.

 キツネはまたしばらく考えていました.次に,キツネはブドウの木から少し離れて,勢いをつけてからブドウの実に向かって飛び上がりました.やっぱり手はブドウの実にはとどかなかったのですが,もう少しで手が届きそうです.

 今度は,キツネは,ブドウの木からうんと離れると,おもいっきり走りました.そして,ブドウの実に向かっておもいっきり飛び上がりました.でもやっぱりブドウの実には届きませんでした.それどころか,勢いをつけすぎて,キツネは転んでしまいました.

 キツネはおこり出しました.

「ちぇっ,あんなブドウなんか最初から食べたくはなかったのさ.それにおいしそうに見えたって,きっと食べたらものすごくすっぱいに決まっているぞ.そうとも,すっぱいブドウなんていらないよ」

 キツネはそう言うと,ますますお腹を減らしてしょんぼりと歩いて行きました.

あるところにヒツジの世話をしている男の子がいました.男の子は,ヒツジが逃げないように見張っているたけで,他にすることがなかったので,とてもひまでした.あるとき男の子は面白いことを思いついて,それをやってみることにしました.

男の子は大きな声でさけびました.

「オオカミがでたぞー!オオカミだー!」

それを聞いた近くの家の人たちは,男の子とヒツジたちを助けようと思って,急いで男の子とヒツジがいる草むらへ行きました.

その人たちは,

「オオカミはどこだ!」

「だいじょうぶか!」

と,男の子に聞きました.

それを聞いた男の子は大笑いして言いました.

「あはははは.オオカミがでたなんてうそだよ.みんなびっくりしちゃって.ああ,おかしい」

それを聞いた人たちは,とてもおこって,

「うそだって!」

「じょうだんじゃない!」

「ぎょうぎの悪い子どもだな」

そう言いながら家に帰って行きました.

何日かして,男の子はまわりの家の人たちをまた驚かせたくなりました.この間のことがとてもおもしろかったからです.

男の子は,ヒツジの世話をしているとき,また大声で言いました.

「オオカミだー!助けてー!」

それを聞いたまわりの家の人たちは,今度こそ本当にオオカミが出たのだと思って,急いで男の子とヒツジを助けにきました.でも,草むらにいっても男の子が笑っているだけで,オオカミはいませんでした.

その人たちは,あきれて言いました.

「今度もうそなのか」

「まったく.いいかげんにしろ」

また何日かして,男の子の声が聞こえてきました.

「助けてくれ-!オオカミだー!今度は本当にオオカミが出たんだよー!」

それを聞いたまわりの家の人たちは言いました.

「あの男の子がまたうそをついている」

「これで三回目だ」

「ばからしい.何度もだまされてたまるか」

こうして,だれも男の子とヒツジがいる草むらにはいきませんでした.

その日の夕方,ある人がヒツジのようすを見に行ってみると,ヒツジはいませんでした.男の子もいませんでした.

そうです.今度は本当にオオカミがあらわれて,ヒツジも男の子も食べられてしまったのです.

 お腹をすかせたイヌが木に隠れて,どこかをじっと見つめています.イヌが見ている先には肉屋がありました.肉屋には肉が並べてあります.イヌはその肉を取って逃げるつもりだったのです.

 でも,肉屋にはもちろん肉屋さんがいました.もし,肉屋さんが見ているところにイヌが近づけば,イヌはとたんに追いはらわれてしまうでしょう.ですから,イヌは肉屋さんがいなくなる時をずっとまっていました.イヌがしんぼうづよく待っていると,ついに肉屋さんがお店の奥に入りました.

 今だ!

 イヌは肉屋にかけよって,大きな肉のかたまりをくわえました.

「こら!どろぼうイヌ!」

 イヌが肉をとったところを,肉屋さんが見つけて追いかけてきました.イヌはとにかくいっしょうけんめい走って,やがて肉屋さんは見えなくなりました.

 イヌは大きな肉をくわえて,気分よく道を歩いていきました.やがて,小さな川の上にかかった橋の上まできました.

 イヌがふと橋の上から下の川をのぞくと,川の中にもう一匹のイヌが見えました.川の中のイヌは,おいしそうな大きな肉を口にくわえています.橋の上のイヌは,川の中のイヌを驚かしたら,川の中のイヌは肉をおいて逃げ出すのではないかと思いました.ですので,橋の上のイヌは,うなり声を上げて,川の中のイヌを驚かそうとしました.すると,川の中のイヌも,鼻にしわをよせて,うなっているように見えました.橋の上のイヌは,負けてはならないと,もっと大きな声で川の中のイヌを驚かそうと思いました.

「ウー,ワン!ワン!」

 そのとたん,橋の上のイヌが口にくわえていた肉は,川の中に落ちました.

「しまった,川の中のイヌは,自分の姿がうつっただけだったんだ」

 橋の上のイヌはそう思いましたが,すでに遅く,もう肉は沈んでしまいました.

 誰も知らない南の島がありました.その島には,いつでもたくさんの美しい花がさいていて,いつでも花のよい匂いがしていました.

 その島には町がありました.町の人は誰もがやさしかったのですが,一人困ったおじいさんがいました.おじいさんはお酒を飲むと,周りの人とけんかをしたり,誰もいなければ,ものを壊したりしました.町の人たちは,おじいさんに乱暴はやめるように何度も言ったのですが,おじいさんはお酒を飲むと,言われたことを忘れて,やっぱり乱暴をしました.町の人たちは,しかたなくこのおじいさんを町からおいだすことにしました.

 町をおいだされたおじいさんは,町のある山を降りて海までやってきました.おじいさんは,自分が悪かったと反省していたのですが,今さら町の人たちはゆるしてくれないだろうと思いました.おじいさんはすることもなかったので,砂浜に寝ころんでいると,やがてねむってしまいました.

 すると,おじいさんは夢を見ました.海の向こうから島に向かってたくさんのトンボが来ます.夢の中でトンボはいいました.

「今までぼくたちトンボがいたところは冬になってしまったので,暖かい南の島に逃げてきたのです.おじいさん,この島の一番気持ちのよいところへ案内してもらえないでしょうか.お礼に良いことを教えてあげましょう.この砂浜をずっと歩いて行くと,船があります.その船の中にお酒がありますよ」

 おじいさんは目を覚まして,がっかりしました.おじいさんは思いました.

(町の真ん中にある花畑は,この島で一番気持ちのよいところだ.トンボに教えてあげることができればよかったんだが,夢ではしかたがないな)

 おじいさんはまだ眠かったので,もう一度昼寝をしました.次に目を覚ますと,なんとおじいさんの体中にトンボがとまっていました.おじいさんは思いました.

(はて?もしかしたらさっきのトンボの話は夢ではなく,本当のことかもしれない)

 おじいさんは試しに砂浜を歩いて行って,船があるか探してみることにしました.しばらく行くと,確かに,古い船が砂浜に乗り上げていました.おじいさんが船の中を探すと,なんとお酒の入っているつぼが見つかりました.

 おじいさんがお酒を少しなめてみると,今まで飲んだことがないようなおいしい味がしました.おじいさんがふと気づくと,おじいさんのまわりをたくさんのトンボが飛んでいました.おじいさんはトンボに向かって言いました.

「どれ,こんなうまい酒をもらったんだから,よいところに案内してやらないといけないな.ついてきなさい」

 おじいさんが町へ着くと,町の人達は驚きました.おじいさんのまわりに,数えきれないほどのきれいなトンボが飛んでいたからです.

 町の人たちは,おじいさんをおいだしたことを残念に思っていたので,おじいさんをもう一度町の中に入れてあげることにしました.おじいさんはトンボを町の真ん中の花畑までつれていき,トンボは,1年中暖かくて,花のいい匂いのする,この町で暮らすことになりました.

 それ以来,町の人たちは,このおじいさんを”トンボのおじいさん”と呼ぶようになったということです.

 正雄くんが小学生のときです.正雄くんのクラスに,水野さんという女の子が転校してきました.正雄くんやクラスの他の人たちは,水野さんと早く話して,いろいろなことを聞きたかったのですが,恥ずかしくてなかなか話ができずにいました.そのため,誰も水野さんと仲良くできないままで,水野さんはクラスでひとりぼっちでした.

 何日かして,正雄くんの家に水野さんのお母さんがきました.水野さんのお母さんは,正雄くんと正雄くんのお母さんに言いました.

「うちの娘と正雄くんは同じクラスです.家の娘は,クラスで誰とも話ができないので,学校にいくのがいやだと言っています.少しでよいので,正雄さんにうちの娘となかよくしてもらえないでしょうか」

 正雄くんは,水野さんに話しかけようとして,できなかったことを恥ずかしく思いました.それから正雄くんは,学校で水野さんに話しかけるようにしました.だんだんと,クラスの他の人たちも水野さんとなかよくできるようになり,水野さんは楽しく学校に通えるようになりました.

 水野さんのお母さんはとてもよろこんで,正雄くんを家によんでくれました.水野さんは正雄と遊びながら,いろいろな話をしてくれました.そして,水野さんは引き出しから箱を持ってきて言いました.

「この中には,私の宝物の青いボタンが入っているの.死んでしまった私のお父さんがくれたのよ.これをあなたにあげるわ」

 それはとてもきれいなボタンでした.正雄くんは聞きました.

「そんなに大事なボタンをもらってもいいの?お母さんに断ったほうがいいんじゃない」

 水野さんは答えました.

「私のものだからいいのよ.大事にしてね」

 正雄くんはよく水野さんの家で遊ぶようになり,二人はとてもなかよくなりました.でも,学校でははずかしてくあまり話しませんでした.

 ある日,正雄くんが学校に行くと,水野さんは学校に来ていませんでした.そして先生は言いました.

「水野さんは遠い国へ引っ越しをすることになりました.あいている席をつめてください」

 正雄くんはとても驚き,悲しくなりました.

「どうして水野さんは何も言ってくれなかったんだろう.今どこにいるのだろう」

 それからしばらくたちました.正雄くんは,水野さんからもらった青いボタンをときどき見ては,どこに行ったのかわからない水野さんを思い出してますます悲しくなりました.正雄くんが,この青いボタンを大人に見せると,多くの人が,ボタンを欲しいと言いました.しかし,正雄くんは誰にもあげませんでした.水野さんとの思い出の品だったからです.

 ある日,正雄くんが水野さんのボタンの話を親戚の男の人にすると,男の人は言いました.

「正雄さん,そのボタンを1つぼくにくれませんか.ぼくは電車に乗ってよく遠くまで旅をします.旅をするときに,このボタンを胸にぶらさげておきますよ.そうしたら,水野さんを知っている人が気づいて,何か教えてくれるかもしれません」

 正雄くんはこの人に1つボタンをあげることにしました.

 またあるとき,キンギョを売りに来たおじさんが,正雄くんのボタンを見て言いました.

「そのボタンとキンギョを交換してもらえませんか」

 正雄くんは,ボタンの話をして,大事なものなので交換はできないと言いました.するとキンギョ売りのおじさんは言いました.

「私はキンギョを売りに,いろいろな町に行きます.もしかしたら水野さんの住む町にも行くかもしれません.このボタンを私の帽子につけておいたら,水野さんが気づくかもしれませんよ」

 正雄くんは,キンギョ売りのおじさんにもボタンを1つ上げました.

 正雄くんが持っているボタンは1つになりました.正雄くんはもうだれにもボタンをあげずに,大切に持ち続けました.

 小さな村にネズミの兄弟がすんでいました.この村は山の中にあり,まわりは森ばかりでした.あるとき村にすむネズミの兄弟ところに,大きな町にすむネズミが遊びに来ました.村のネズミの兄弟はよろこんでごちそうを準備しました.村のお兄ちゃんネズミは言いました.

「さあ,町のネズミさん,森からごちそうをたくさん取ってきましたよ.好きなだけ食べてね」

 それを見て町のネズミは言いました.

「これがごちそうだって?木の実にキノコ,ムギや米粒.君たちはいつもこんなつまらないものをたべているのかい?」

 こんなふうに言われて,村の弟ネズミは怒りそうになるのをがまんして言いました.

「じゃあ町にはもっとすごいごちそうがあるんですか?」

 町のネズミは答えました.

「もちろんだとも,じゃあこれから町へ連れて行ってあげよう」

 こうして村のネズミの兄弟は,町のネズミにつれられて大きな町に来ました.町には家が隙間なくならんでいて,どこも人でいっぱいでした.ネズミたちは一軒の家にもぐりこみました.

 その家のテーブルに行くと,村のネズミが見たこともないごちそうが並んでいました.パンにチーズ,鳥の丸焼き,アイスクリームにケーキ.村のネズミの兄弟はとても驚きました.

 ネズミたちがテーブルのごちそうをたべようとしたとき,急に大きな動物がテーブルに乗ってきました.それは大きなネコでした.

 ネズミたちはテーブルから飛び降りて逃げ出しました.もう少してネコに捕まりそうになる瞬間,なんとかネズミたちは壁の穴にもぐりこみ助かりました.

 ネズミたちが家から逃げ出して道路に出ると,今度は自転車や車にひかれそうになりました.ネズミたちは必死で逃げまわって,やっと木の影にかくれました.

 村のおにいちゃんネズミは言いました.

「町にごちそうがあるのはわかったよ.でもこんなに恐ろしいところ,とてもすめないよ.村は木の実しかとれないけれど,危ないものは何もない.やっぱり村の生活が一番だ」

 村のお兄ちゃんネズミは,弟ネズミに声をかけました.

「さあ,すぐに村に帰ろう」

 すると,村の弟ネズミはしばらく考えて言いました.

「ぼくはずっと村の生活はつまらないと思っていたんだ.村には何も変わったことは起こらないからね.ぼくはしばらく町にいようと思う.町には恐ろしいこともあるけれど,いろいろな食べ物があって,遊ぶところも多いみたいだ」

 村のお兄ちゃんネズミは何とか弟を村に連れ帰ろうとしましたが,弟は町にいると言って聞きませんでした.しかたなく村のお兄ちゃんネズミは自分だけで村に帰りました.

 こうして村のネズミの兄弟は,村と町でばらばらに暮らすことにしました.それからネズミの兄弟はもう会うこともなく,お互いどうやって暮らしているかは分からなくなってしまいました.

小学校低学年向け

 むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんがいました.

 ある日,おじいさんは木をとりに林へ出かけて,おばあさんは洗濯物をもって川に出かけました.おばあさんが川で洗濯をしていると,大きなモモが流れてくるのに気づきました.おばあさんはモモを川から取り上げると,それをかかえて家に帰りました.

 やがて,おじいさんも家に帰ってきました.おじいさんとおばあさんはモモを食べようとして,モモに包丁で切れ目をいれました.そのとたん,モモは自然に二つに割れて,その中から男の子が出てきました.

 子どもがいなかったおじいさんとおばあさんはとても喜んで,その男の子に”桃太郎”という名前をつけ,育てることにしました.桃太郎は元気に大きくなり,やがて強いお兄さんになりました.

 さて,このころ,鬼があらわれるようになりました.鬼は,家を壊したり,人から食べ物や宝物をとったりするので,多くの人が困っていました.それを知るようになった桃太郎は,鬼が住む鬼ヶ島というところまで旅をして,鬼をやっつけようと決めました.

 桃太郎が旅に出る日,おじいさんは桃太郎に刀をくれました.おばあさんは,桃太郎に旅のとちゅうで食べるようにと,きびだんごをつくってくれました.

 桃太郎が旅をはじめてしばらくすると,イヌに会いました.イヌは桃太郎に言いました.

「桃太郎さん.どこへ行くのですか?」

 桃太郎は答えました.

「鬼たちの住む鬼ヶ島というところへ,鬼をやっつけにいくんだよ」

 犬は聞きました.

「それなら,お手伝いをしますので,桃太郎さんのもっているきびだんごをもらえませんか?」

 桃太郎は喜んで答えました.

「もちろんだ.さあ出かけよう」

 桃太郎はイヌにきびだんごをあげました.こうしてイヌは,桃太郎といっしょに鬼をやっつけにいくことになりました.

 桃太郎とイヌが旅をしていると,今度はキジに出会いました.

 キジは,桃太郎の手伝いをするので,きびだんごがほしいと言います.桃太郎はキジにきびだんごをあげて,キジは桃太郎といっしょに鬼をやっつけにいくことになりました.

 桃太郎とイヌとキジが旅をしていると,今度はサルに会いました.サルも,桃太郎の手伝いをするので,きびだんごがほしいと言いました.桃太郎はサルにもきびだんごをあげて,手伝ってもらうことにしました.

 桃太郎,イヌ,キジ,そしてサルは,旅を続けて,とうとう鬼の住む鬼ヶ島にやってきました.

 桃太郎たちは,鬼たちを見つけると戦いを始めました.そして,桃太郎が一番大きな鬼を刀で切ろうとした時です.

「やめろー」

「お父さんを助けるぞー」

 そう言って,鬼の子どもが何人も出てきて桃太郎にしがみつきました.桃太郎が切ろうとした大きな鬼は,鬼の子どもたちのお父さんのようでした.鬼の子どもたちは泣きながら桃太郎を引っ張ります.桃太郎はすっかり戦う気がなくなってしまいました.鬼たちはもう降参するところだったので,桃太郎は戦うのをやめて,鬼たちと話をしてみることにしました.

 大きな鬼は,

「人から食べ物や宝物をとってすまなかった.とったものは返すからゆるしてくれ」

 と桃太郎にあやまりました. 

 桃太郎は,鬼たちと話ができることに安心して,なぜ鬼たちが人のものをとったのか聞きいてみました.

 すると鬼たちは言いました.

「確かに人のものをとったことは悪かった.ふだん鬼たちは魚をとって食べていたんだが,最近は魚が捕れなくて,食べ物がなくなってしまったのだ.それで,鬼たちは困って,人のすむところにまでいって食べ物をとってきたんだ」

 それを聞いて,桃太郎は鬼にも理由があるとわかりました.こうして桃太郎が鬼たちと話をしていると,鬼たちの中から鬼のお姉さんが出てきて言いました.

「鬼に人の手伝いをさせてくれないかしら.鬼は体が大きくて力が強いので,重い木や岩を運ぶことが得意なの.建物を立てたり,川に橋をかけたり,人の手伝いをすればきっと役に立つわ.そのかわり,人の食べ物を鬼に分けてほしいの.このままでは鬼は食べ物がなくて死んでしまうわ」

 桃太郎は,この鬼のお姉さんはかしこいなと思いました.確かに鬼の助けがあれば人も喜ぶように思えます.一方人は,いろいろな道具を作ったり,野菜やイネを育てたり,お酒をつくったりすることが得意です.ですから,人は鬼に手伝ってもらう代わりに,道具や食べ物,お酒を鬼にあげることができるのです.

 そうして,桃太郎と鬼のお姉さんの考えで,鬼と人はいっしょにくらすことにしました.最初,鬼と人はあまりなかが良くありませんでした.しかし,人が鬼を手伝い,鬼が人を手伝って仕事しているうちに,だんだんと鬼と人はなかよく暮らせるようになりました.

 桃太郎とお姉さんもいっしょにいるうちにとても仲良くなり,結婚することにしました.桃太郎と鬼のお姉さんは幸せにくらし,また,鬼と人が助けあう町は大きくなりとても栄えたということです.